写真は宝物


科学産業博物館を出た後、菊田さんとグロリアさんにお会いする。
昨晩、BBと楽屋で会ったことを菊田さんにお話したら、とても喜んでくださり、
「プレゼントをBBに渡したよ!」とおっしゃってデジカメの画像を私に見せてくださった。
そこにはBBと菊田さんが写っており、
BBの手元には私が用意したプレゼントの袋が写っている。
「わざわざありがとう」と思いながら菊田さんにお礼を言うと、
「こうなったらBBからピックをもらったら?バラの花を買うといいよ!」
とアドヴァイスしてくださったのである。
実は私もBBにバラの花をあげたいと思っていたところだったので、
その言葉がタイムリーで嬉しかった。

早速バラを買いに行く。
バラには様々な色があり、それぞれ花言葉は違う。
赤は「情熱的な愛」、白は「尊敬・純潔」、ピンクは「気品」
黄色は「薄らぐ愛・嫉妬」など。
赤いバラがいつもお店にあるとは限らない。
入荷していない時もあるので、祈るような気持ちでお店に入って行った。

そこは黒人の方が経営している花屋さんで、
私が「こんにちは。赤いバラの花はありますか?」と尋ねると、
カウンターにいた女性が「たくさんあるわよ!そこに」と言いながら指をさした。
振り返って指のさししめす方向を見ると、
50本ぐらいの真紅のバラが容器に入っている。
私の気持ちは華やいだ。

「1本ください」とお願いすると、中から女性が出て来て、念入りに選んでくださり、
奥で作業をしている女性にバラを渡した。
レジの前で待っている間、私は嬉しくてそばにいた女性に話しかけた。
「今晩、このバラをB.B.キングにプレゼントするんです。
スター・プラザで彼のライヴがあるんですよ。」
彼女はビックリして「本当に?私も彼のライヴを観に行ったことがあるわよ。
ねぇ、この子は今晩このバラをB.B.にあげるんですって!」
と奥にいる女性に大きな声で知らせた。
出てきた真紅のバラはカスミ草に包まれ、きれいにラッピングされている。
大きな赤いリボンまで結んであり、私が喜ぶと、
二人は「素晴らしい夜を!」と素敵な笑顔で見送ってくれた。

菊田さんに「頑張ります」と言いながらバラの花を見せる。
その時、今日は絶対に菊田さんの写真も撮ろうと思った。
ステージの真下から、彼がギター・ソロを弾いている瞬間を捉えてみたい。
できたらココ・テイラーが歌う姿も一緒に。 

7時半には会場に入り、まず今日の座席をチェックする。
幸いなことに、ステージ中央に通じる通路側の席だ。
後ろから数えると5列目だが、ここならいつでもステージに走って行ける。
土曜日ということもあって、1階は満席状態。
2階も人であふれていた。
きっと観客数は3000人を超えていただろう。

8時を過ぎた頃、昨日同様、イントロダクションが流れ、
ココが純白のドレスに身を包んで登場した。
私はカメラを握り締め、タイミングをねらう。
ココの体調が気にかかる。昨日より辛そうだ。
ステージの袖でスタッフも心配そうな顔をして見守っている。

まだ誰もステージに近寄って写真を撮りに行かない。
私はしばらく様子を伺っていたが、菊田さんがスロー・ブルースの
ソロを弾き始めた時「今しかない!」と思ってステージに走り寄った。
まわりの視線を感じながら、カメラを向ける。
菊田さんの全エネルギーがギターに注がれているのがわかり、
周りには張り詰めた空気が漂っていた。
こうした空気は日常的に味わえるものではない。
これこそライヴの醍醐味であり、真骨頂であると思った。
「ベスト・ショットが撮れますように」という想いをカメラに託してシャッターを切る。

菊田さんのソロが終わり、今度はココ・テイラーが歌い出す。
すぐココにカメラを向けたが、シャッターがなかなかおりない。
いったん座ってカメラの具合を確かめ、
もう一度立ち上がってシャッターを切った。

急いでステージから離れて席に戻ったら、
後ろからセキュリティー担当の男性がやってきて私の肩をたたいた。
「今度写真を撮ったら、カメラを没収しますよ!」
そのようなことを言っているような気がして血の気が引いた。
私は彼の目をみつめながらすぐに謝った。
「ごめんなさい。もう二度と写真は撮りません。」
するとその男性はゆっくりと丁寧に話し出す。
「そんな事を言っているんじゃないんだよ。写真は撮っていいんだよ。
でも写真は1回につき1枚にして欲しいんだ。
みんながたくさん撮っていたら大変なことになるでしょ。
心配しないで、思い出を残して。そのかわりすぐ戻ってきてね!」
メガネの奥のまなざしは優しく、語気も穏やか。
私はホッとして「必ず守ります。」と彼に約束した。

ココのステージが終わった後、
カメラを持った男性が、心配した顔つきで
私のところにやって来てこう言った。
「すみません・・・さっきあなたは何を言われていたのですか?
カメラのことですか?写真を撮ってはいけないのですか?」
私はニッコリ笑って
「写真は大丈夫ですって。
その代わり1枚撮ったらすぐ戻って来てくださいって言っていましたよ!」
その人は安堵の笑みを浮かべながら「ありがとう」と言って席に戻って行った。

次のボビー・ブランドのライヴで、
私は躊躇しながらもステージまで歩いて行き、彼の姿を写真に収めた。
この時点でかなり多くの人がステージ前までやって来て写真を撮っている。
私が席に帰ろうとした時、先ほどのカメラを持った男性と通路ですれ違った。

日本では、ライヴの前に持ち物検査があり、
カメラや録音器材を持っていないかどうかチェックされる場合が多い。
もし持っていたらその場で預けなければならない。
ここではそういった検査は何もなかったので、
大切な写真をたくさん撮る事ができた。

思い出に写真はつきものだ。
たった1枚の写真が、その人を勇気付け、人生を満たしてくれる事だってある。
今回の旅行で撮った数々の写真は、私にとってかけがえのない宝物となった。

<04・5・21>




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